ネット環境の構築にビジネスフォン、複合機などの設置に欠かせないのが”LAN工事”。ビジネスフォンや複合機などによってあまり意識されませんが、IoT(モノのインターネット)がすすむ現代においてLAN工事は重要な設備の1つです。
LAN工事と一括りにしていますが配線の敷設に、ハブ(HUB)やルーターなど周辺機器の設置、オペレーションシステムやアプリケーションソフトの設定など。意外と範囲が広く、規模によってはLAN工事だけで何百万円になることも。
そんな大掛かりな設備(固定資産)につきものなのが”耐用年数”と”減価償却”。今回は、LAN工事に関わる耐用年数と減価償却についてご説明します。おすすめの会計ソフトにも触れていますので、ぜひ参考にしてみてください。
減価償却資産の見積期間のこと
耐用年数とは”法定耐用年数”と呼ばれるもので、”対象(設備や機器など)の法定上の使用可能期間(見積)”を定めたもの。対象とは”減価償却資産”のことで、今回の主役である”LAN工事”もまた当てはまるものです。
減価償却資産とは”年数によって対象の価値が減少されていく”もののこと。例えば、耐用年数が5年の減価償却資産であれば初年を100%ととし、2年目は80%、3年目は60%のように5年間かけて少しずつ減少されていく訳です。
耐用年数の対象はあくまで”新品”
ただし、耐用年数の定められている対象(減価償却資産)というのはあくまで”新品”です。LAN工事は新品が基本なのでまず当てはまりませんが、ビジネスフォンや複合機のようなOA設備には”中古”という選択肢もあります。
もし中古として購入したのであれば、別途で取得後からの使用可能期間の見積もりをして耐用年数を定めることが可能です。また、どうしても耐用年数を見積もれないときは、”簡便方(耐用年数の20%)”で計算もできます。
減価償却は”10万円以上”が基準
耐用年数や減価償却というのは大きな経費をそのまま計上するのではなく、数年(耐用年数)に渡って分割して処理していくためのもの。分割して経費計上することで長期間に渡っての節税につながり、健全な経営が期待できます。
減価償却資産として処理できるのは購入代金が”10万円以上”のものからです。10万円以内の設備、機器は一括処理する必要が。また、10万円以上30万円以内も”少額減価償却資産の特例”として一括処理が可能です。
2.減価償却の方法
減価償却とは10万円以上の固定資産を少しずつ経費計上するためのもの。耐用年数とは減価償却するための見積期間を定めたものということでした。では、減価償却に使われる一般的な方法と、珍しい方法についてご紹介しましょう。
定額法
もっとも一般的な方法なのが”定額法”。
その名の通り、”購入代金から毎期一定額を減価償却していく”というもの。購入代金を100万円だとして、初年度は20万円、2年目も20万円と。購入代金が0円になるまで均等に減価償却するので、グラフとして直線に減少する形です。
定額法は毎期一定額を経費処理するので、”計算が簡単”というのと”一定の節税”になるという特徴があります。経費処理というのは範囲が広いだけに煩雑なもの。少しでもスマートに処理したいのであれば、定額法がおすすめです。
定率法
定額法と同様に一般的なのが”定率法”。
”購入代金の未償却分に対して毎期一定率(償却率)をかけて減価償却額を計算していく”というもの。購入代金を100万円に対して償却率0.5だとすると、初年度は100×0.5で50万円、2年目は(100-50)×0.5で25万円と。
定率法は初年度がもっとも減価償却額が大きく、2年目,3年目と経過するごとに指数関数のグラフのように減少する形です。早い段階で減価償却できるので、導入時点から少しでも多く経費処理したいときに定率法が選ばれます。
級数法
LAN工事はもちろん、他の減価償却資産にあまり使われないのが”級数法”。
その名の通り、”算術級数定理と呼ばれる計算式を使用し、購入代金から毎期一定率の減価償却額を計算していく”というもの。定率法と同様に初年度に減価償却額が大きくなり、2年目,3年目と指数関数のように減少していきます。
ただ、算術級数定理を調べると分かりますが、数学に関してある程度の知識がないと計算できない式です。正直、特別な理由でもない限りは選ぶ必要はないでしょう。少なくとも”定率法”であれば算数の掛け算程度で計算でき簡単です。
償却基金法
定率法や級数法とは異なり、減価償却額が増加していくのが”償却基金法”。
”購入代金から毎期一定額を減価償却しつつ、同額(償却基金)を外部に投資し、利息をさらに償却基金に組み込む”というもの。「ちょっと何を言っているのか…」と混乱してしまうほど、会計を専門に学んでいないと分からないです。
生産高比例法
償却基金法と同様に、適応できる状況が特殊で複雑なのが”生産高比例法”。
”減価償却資産から発生する生産高、または利用高を基準にして減価償却額を計算していく”というもの。その為、炭鉱業(鉱山業)や航空業、運送業などにおける設備、機器などの減価償却資産(固定資産)が適応されます。
上記から分かる通り、LAN工事で適応されるのは”定額法”か”定率法”のどちらか。毎期一定額を減価償却するなら”定額法”、初期から多くを処理したいのなら”定率法”と覚えておけばいいでしょう。計算式自体はどちらも簡単です。
3.LAN工事の耐用年数は?
LAN工事の減価償却に使われるのは”定額法”か”定率法”のどちらかということでした。減価償却するにはまずは”耐用年数”がどれほどか確認する必要があります。では、LAN工事に関係する設備、機器の耐用年数を見ていきましょう。
2002年に”従前の耐用年数通達2-7-6”が廃止
LAN工事と一括りにしていますが、細かく分けるといくつかの設備、機器が関係してきます。
- LANケーブル(光ケーブル)
- ハブ,ルーター,LANボード,リピーター
- サーバー
- ネットワークオペレーションシステム,アプリケーションソフト
- 端末機
- プリンター
- イストペアケーブル,同軸ケーブル
実は、2002年以前までは上記の全設備、機器をひとまとめにして耐用年数を”6年間”とできていました。しかし、2002年に”従前の耐用年数通達2-7-6”が廃止されたことにより個々の設備、機器で耐用年数を適応する必要が。
というのも、最近では各設備、機器の入れ替わりが激しく、LAN工事も全体だけでなく部分的に行われることが増えてきたためです。LANケーブルの増設のみ、端末機の交換のみなど。ひとまとめにした耐用年数では対応できないのです。
LAN工事の耐用年数は個々によるものに
先述した2002年以降は、LAN工事の耐用年数は以下のように定められています。
- LANケーブル(光ケーブル)…10年
- ハブ,ルーター,LANボード,リピーター…10年
- サーバー…6年
- ネットワークオペレーションシステム,アプリケーションソフト…5年
- 端末機…6年
- プリンター…5年
- ツイストペアケーブル,同軸ケーブル…18年
上記から分かる通り、サーバーやネットワークオペレーションシステムのように精密で技術的に進歩しやすいものほど耐用年数は短めに。反対にLANケーブルやハブのようにシンプルで、同じ規格を使い続けられるものほど長くなる訳です。
4.減価償却の計算例
LAN工事では光ケーブルやサーバーなど設備、機器によって耐用年数は細かく設定されます。では、実際にLAN工事の減価償却を”定額法”と”定率法”を使って計算してみましょう。ここでは光ケーブルの敷設工事で100万円とします。
定額法
定額法とは”購入代金から毎期一定額の減価償却額を計上していく”というものでした。光ケーブルの耐用年数は10年、購入代金100万円に対する減価償却額は以下のようになります。
- 100万円×0.1(10年)=10万円(1年間)
つまり、定額法における今回の光ケーブルの減価償却額は毎期10万円に、10年間で100万円分ということです。ちなみに、年間10万円なので毎月8,333円ほど経費計上することに。端数に関しては”四捨五入”で問題ないでしょう。
定率法
定率法とは”購入代金に対して毎期一定率(償却率)をかけて減価償却額を計算していく”というものでした。光ケーブルの耐用年数は10年、購入代金100万円に対する減価償却額は以下のようになります。
- 100.000万円×0.2=20.0000万円(初年度)
- 80.0000万円×0.2=16.0000万円(2年目)
- 64.0000万円×0.2=12.8000万円(3年目)
- 51.2000万円×0.2=10.2400万円(4年目)
- 40.9600万円×0.2=08.1920万円(5年目)
- 32.7680万円×0.2=06.5536万円(6年目)
- 26.2144万円×0.2=06.5536万円(7年目)
- 19.6608万円×0.2=06.5536万円(8年目)
- 13.1072万円×0.2=06.5536万円(9年目)
- 06.5536万円×0.2=06.5535万円(10年目)
※上記は1万円を単位に計算しています。
先述した定額法に比べて初年度は20万円と減価償却額は2倍に、対して5年目以降は8万円以下と減少していることが分かります。そして、最終期(10年目)には残りの減価償却額(6万円ほど)を経費計上する訳です。
償却方法はどちらを選ぶべき?
定額法は毎期一定額を減価償却するので、中小企業や個人事業主向け。というのも、中小企業や個人事業主というのは設備、機器を導入してもすぐ利益に直結するとは限りません。長期で少しずつ経費処理するのが安心なのです。
反面、定率法は毎期一定率の減価償却額を処理するので大企業向け。初年度から3年間に集中して経費計上できるので節税効果が高いため。事実、大企業のおよそ8割が減価償却において”定率法”を採用しているそうです。
経費処理をする上で、意外と悩むのが”有形固定資産”か”無形固定資産”か。償却方法自体は同じでも、経費処理上は分類を変える必要があります。実は、LAN工事の中で”サーバー”だけは有形と無形のどちらかに分かれることが。
- 有形固定資産…物理サーバー
- 無形固定資産…仮想サーバー
物理サーバーとはオフィス内に実際に設備、機器として設置するサーバーのこと。”自社サーバー”とも呼ばれます。自社で設備を管理する必要があるものの、容量から機能に至るまで自由に設定でき、活用の幅の広いサーバーです。
仮想サーバーとは他社の管理する物理サーバーの一部ないし全部を、ネットワークを介して利用するサービスのこと。自社で設備を管理する必要がなく、運用費用を大幅に抑えられるもののあくまでサービス内での利用に限定されます。
一般的に予算と人員をさける大企業は物理サーバーを、少しでも手軽に運用したい中小企業(個人事業主)は仮想サーバーを利用するイメージです。ちなみに、仮想サーバーであればLAN工事の必要もなくすぐに導入できます。
6.会計処理を簡単にするコツ
LAN工事の減価償却(会計処理)は”定額法”か”定率法”と、それほど難しいものではありません。しかし、会計処理はLAN工事以外にも、ちょっとした買い物に至るまでする必要が。いかに会計処理を効率化するかが大切です。
処理するサイクルを作る
まず、会計処理では”処理するサイクルを作る”ことを意識しましょう。
大企業であれば会計処理を専門にする社員がいます。しかし、中小規模または個人事業主では専門に社員をおけないことも。社長(代表)自らが会社全体の会計処理をしていることも珍しくなく、非常に手間のかかる作業なのです。
毎日のちょっとした領収書までその都度処理するというのは難しいでしょう。であれば、当月の領収書等はひとまとめにしておき、月末にまとめて処理する日を決めておくなど。およその日にちを決めておけば、処理のし忘れを予防できます。
会計ソフトを活用する
次に、会計処理では”会計ソフトを活用する”ことも効率的です。
会計ソフトとは会計処理に特化したソフトのことです。例えば、”MFクラウド会計”や”弥生会計”など。項目や金額など基本的な情報を記入するだけ。手書きで計算する必要もなく、会計の知識がなくとも簡単に会計処理ができます。
一般的にはパソコンにインストールするタイプのものが、最近ではブラウザ上で利用できるクラウドサービスも。スマホやタブレットからも登録できるアプリもあります。また、無料でも十分に使えるサービスもあり、ぜひ導入しておきたいものです。
”公正妥当”を守る
最後に、会計処理では”公正妥当”を守ることが欠かせません。
というのも、どのような形態の企業であれ会計処理に関する”企業会計原則(指針)”が作成されます。そして、企業会計原則でもっとも大切とされるのが”公正妥当”。つまり”決算に誤解を招くような表記をしてはならない”というもの。
故意、過失にせよ”不正会計”と取られるものはクライアントや出資者たちからの信頼失墜につながります。反対に、公正妥当な会計をしていれば信頼できる企業と認識されるだけでなく、処理自体にも一貫性が生まれてスムーズです。
EPSON財務応援
会計ソフトとして30年間も愛されてきた”財務応援”。エプソン(EPSON)の提供する会計ソフトで、法人(企業)から個人事業主に至るまで幅広いシリーズが提供されています。サポート体制が充実しているのもポイントです。
ただし、無料で使えるのは”60日間”のみ。各プランの全機能をお試しでき、期間終了後は年間2万円の使用料が発生します。あくまで”お試し(無料)”ではあるものの、人気ソフトを試した上で導入するか検討できるのは魅力的です。
ツカエル会計
小規模企業や個人事業主に特化しているのが”ツカエル会計”。”使いやすい・見やすい・わかりやすい”を意識して設計されており、会計処理に慣れていない初心者でも直感的に操作でき、スッキリとしたデザインで見やすくもあります。
また、会計ソフトにしてはデータ容量が少なく、パソコンの処理を軽減して軽快に動作します。しかし、”財務応援”と同様に、無料で使えるのは”30日間”のみ。期間終了後は年間2.2万円(パッケージ版)の使用料が発生します。
クラウド会計ソフト freee(フリー)
パソコンからタブレット、スマホ(アプリ)に至るまで幅広いデバイスで利用できるのが”クラウド会計ソフト freee(フリー)”。会計処理(経費処理)だけでなく”見積書”や”請求書”、”支払調書”に至るまで幅広い書類を作成できます。
また、 freee(フリー)と名前にある通り、基本機能(ライトプランの一部)に関しては完全無料です。ライトプランやビジネスプランでも30日間の無料期間が。期間終了後は年間3.98万円ほど(ビジネスプラン)の使用料がかかります。
MFクラウド会計
法人(会社)の会計処理に特化した機能が充実しているのが”MFクラウド会計”。クラウドサービスの1つとして、ネットワークにさえつながっていればどこでも項目(仕訳)を追加することが。税法改正にも自動でアップデートしてくれます。
また、銀行などとの連携もでき、取引の一部(明細データなど)は自動取得も。スマホカメラでレシートを撮影するだけ、自動で経費精算する機能もあります。年間仕訳数50件までは無料、以降は年間2.178万円(ライトプラン)です。
弥生会計 オンライン
会計ソフトとしてシェア1,2を争うほど人気を集めているのが”弥生会計 オンライン”。銀行明細からクレジットカードの”取引データ”、レシートや領収書などの”スキャンデータ”を自動仕訳が可能と、項目を入力する手間を大きく省けます。
その上、期間(年度)の途中でも会計状況を”グラフレポート”として出力でき、いつでも経営状況を把握できます。使用料は年間2.6万円(セルフプラン)ですが、2014年以降に法人登記した企業は初年度無料で利用可能です。
MJSかんたん!法人会計
イメージキャラクターが”菊川怜”さんでおなじみの会計ソフトは”MJSかんたん!法人会計”。日常の”使いやすさ”にこだわった設計がされているのはもちろん、作成した会計データはそのまま会計事務所と連動させることも可能です。
インストール型の会計ソフト(Windows対象)には珍しく、全機能を対象とした無料期間が30日間もあり契約前に実際の使用感を確かめられます。期間終了後は年間3万円の使用料とお高めですが、その分だけ高性能です。
9.LAN工事はその都度計算しておこう!
今回はLAN工事に欠かせない”耐用年数”と”減価償却”についてまとめてみました。耐用年数とは”対象(設備や機器など)の法定上の使用可能期間(見積)”を定めたもの。耐用年数における対象とは”減価償却資産”です。
減価償却とは”年数によって対象の価値が減少されていく”もののこと。減価償却することで長期間に渡って経費処理でき、節税効果を高めることができます。ちなみに、減価償却の方法(償却方法)は大きく分けて5つあります。
- 定額法
- 定額法
- 級数法
- 償却基金法
- 生産高比例法
LAN工事はもちろん、それ以外の項目(仕訳)に関しても特別な理由のない限りは”定額法”か”定率法”を選びます。また、2002年に”従前の耐用年数通達2-7-6”が廃止されたことにより、LAN工事の耐用年数は個々に。
- LANケーブル(光ケーブル)…10年
- ハブ,ルーター,LANボード,リピーター…10年
- サーバー…6年
- ネットワークオペレーションシステム,アプリケーションソフト…5年
- 端末機…6年
- プリンター…5年
- ツイストペアケーブル,同軸ケーブル…18年
上記の耐用年数に当てはめつつ、定額法か定率法で計算すればいいでしょう。中小企業は定額法、大企業は定率法を選ぶのが一般的です。ぜひ紹介した内容を参考にし、LAN工事における減価償却に挑戦してみてください。